道尾秀介「向日葵の咲かない夏」
タイトルとあらすじから、ほろ苦い青春物語を連想していたら、凄惨な話で驚いた。
冒頭から痛ましい事件がつづく。主人公と、その家族が置かれた状況は過酷だ。感情を抑えた筆致が悲惨さを際立たせ、それが、まだ幼い主人公の視点を通して語られているのだと思うと、胸がしめつけられる。
未読の方のために詳しくは書かないが、いくつかのミステリー的な罠がしかけられている。これが、かなりの劇薬。アンフェア(というか、作者自身、そんなことは気にしていないと思う)ではあるが、筆者が結末に構築した世界は、実に見事な蜃気楼だ。まるで、砂漠にひとり、地図もなく取り残されたような気分になる。
禍々しい。非常に現代的なこの物語には、そんな古くさい形容詞がよく似合う。